霧とリボン——《ミス・モーヴ、リアーヌ・ド・プージィに会いに行く》

 

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 女として生まれた者(それは現実の性別というものを超越した《女》です)はみな、目には見えない自分だけの扇をもっているのではないかと、わたしは密かに思っている。その「扇」で口もとを隠すように心を守る。その「扇」だけがわたしのシークレットを知り、秘されたものがふえるたび、「扇」は優美に変貌してゆく。そのような夢をみるのです。《女》という宿命に生まれた者ならば、きっと誰もが「扇」を無意識に胸の内側にもっているのだと、そのような夢を。わたしがもし《女》であるならば、わたしのなかにもその「扇」はあるのではないかと、あってほしいと、いまわたしは思うのです。どうやらわたしは、少なくとも現在のわたしは、切に《女》になりたいと願っているようなのです。

 

 霧とリボンさまはわたしのなかにも「扇」があるのではないかと信じさせてくれる場所、そしてまだ(おそらくいつまでも)わたしの目指す美には到達していないその「扇」を恥じることなく磨きつづけることの大切さを教えてくれる、わたしにとってはある種の「ゆるし」をともなう場所、そしてどのようなときも日常の喧騒から離れた菫色の魔法のなかで、軽やかで華やかな笑いのさざめきのあるところです。

 

 

 このたびの展覧会でわたしは、ひときわそのような印象を強くいたしました。

 

 リアーヌ・ド・プージィ

 

 高級娼婦となり貴きかたの妃となり、そして聖女となったレイディ。

 そのかたに捧げられる鎮魂歌が、現在、霧とリボンさまにて奏でられております。かの菫色の小部屋の最奥にある秘密の部屋の蓄音機から響くのは、時間の彼方から届けられた追憶の音色。リアーヌが女性たちの「美」を豊かに育むために発行されたという『美人作法 L'Art d'être jolie』を、わたしたちにもわかりやすく翻訳してくださった美しき貴婦人、ミス・モーヴの文章をソファーに腰かけながら拝読させていただく時間は、飛ぶように過ぎてしまうのです。

 

 霧とリボンさまにはじめて足を運ばせていただいたおりから、この場所は数多の女性たちの「扇」を育んでくれる場所であることを直感しておりました。それだけにわたしには、畏れ多い場所でもあったのです。なぜならわたしはおのれのなかに「扇」があることを信じられないでいたから。しかしこの場所に通うたび、すこしずつわたしも、あるいは自分のなかに「扇」があるかもしれないと考えることができるようになってきたような気がいたします。菫色の小部屋の麗しい魔法。どこまでも統御された美、デリケートな空間。そこに菫にこぼれた一滴の朝露のごとき遊び心のあるところ。

 

 かの場所はいつも、軽やかで華やかな笑い声がさざめいております。

 

 女として生まれた者はみな、自分だけの見えない扇をもっている。これをいつかわたしの「扇」にできたら、という祈りをこめてこのたびの企画展で山口友里さんのブローチをお迎えいたしましたことを申し添えて。

 

 

 

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 リアーヌの企画展は前期の美術展、後期の服飾展にわかれて開催されたのですが、前期にはメリリルさんの芸術的に美しいアイシングクッキーをお迎えいたしました。なお、美術展は明日の4日までひらかれているとのことですので、ご興味のあられるかたはぜひあの菫色の小部屋の時間旅行の魔法にかけられてみてください。

 

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高級娼婦リアーヌ・ド・プージィ

高級娼婦リアーヌ・ド・プージィ