黒衣の女へ/Le petit parisien

 

 

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 先月のことになりますが、坂上アキ子さんの個展「黒衣の女へ」を鑑賞しに曳舟のLe petit parisienさんへと足を運んでまいりました。

 

 漆黒を纏う女たちは月みたいにおのれの片側を隠し、どこかに秘密を宿しているように美しく、その画を眺めなつつ心から感じ入りながらわたしは、「そう、秘密」と考えていました。坂上さんの描く女性たちは身の内になにかを秘めているように、わたしには感じられるのです。秘めることを育てているみたいに。

 

 わたしは美しい秘密という種子を育み艶やかな神秘に満ちた花を咲かせている女性が好きです。自分自身の肉体をひとつの「扉」にして、その《鍵》をそっと掌のひらのなかに握り、それを明け渡してもかまわないと胸の内側からあふれるように感じることのできる「誰か」を待ちながら、「秘密の花園」をおのれのなかにもっているような女のひとが。

 

 坂上アキ子さんの描く「花園」は白と黒の廃園です。

 

 過去の木洩れ日が追憶みたいに射す「白さ」のなかで、彼女たちはその日々を埋葬するように「黒い」喪服を纏っている。それは誰に、何に対する弔いなのでしょうか? 彼女たちは月みたいな横顔をむけるだけで、その問いに答えてはくれません。それは《秘密》なのです。おそらく秘めた「なにか」を託したかった「だれか」はもういない。《もう》という言葉を使えば《いつか》はそのような相手が存在していたことになりますが、それさえも謎のなかに閉じこめて、彼女は自分自身という庭園の内側で充足しているように見えます。

 

 このたびお迎えした蔵書票の画の題名は、わたしのおぼろげな記憶によると(なにしろすべてが感覚的で、失礼なことになんでも感覚的に覚えているのです…。)、『The World』だったと思うのですが、わたしはこの絵を拝見したとき、タロットカードの《世界》を連想しました。あらゆる黄金律の中心にたたずみ、すべての調和のなかを漂うひと。おのれの内側にある《庭》を宇宙的なひろさにまで発展させ、そこで女神のように微笑むひと。しかしそのお顔は、どことなく倦んだ翳りが見えます。それは「黒衣」を纏うものの憂いのように、わたしには感じられてなりませんでした。そしてその憂いこそ、坂上さんの画に魅了される一因であるといっても過言でないほどに、この倦んだ微笑みはわたしを魅了してやまないのです。

 

 またこの展覧会を開催されていたLe petit parisienさんには今回はじめてお訪ねしたのですが、書架にならぶ題名の数々に目眩すら感じられるほどでした。(久生十蘭のご本が一式そろっていたといえば、おわかりいただけると思います…。)

 

 ご店主のお話によれば、蔵書票にもっと気軽に親しんでもらいたいという願いから、企画展を開催されるたびに画家さんたちにお頼みして、そのかたの蔵書票をつくられることを主義としていらっしゃるようでした。また、どのような話のなりゆきかわたしがワイルドの『サロメ』が好きだというと、お店の書架からビアズリーの挿絵の原本をとりだしてくださり、この手で頁を繰らせていただくという貴重な経験をさせていただきました。ほんとうに素敵なお店でしたので、またべつの展示のおりにも足を運ばせていただくことが叶えば、と思います。