アール・デコ・シリーズ企画展《ROARING TWENTIES〜ファッション・ プレートの女性たち》/霧とリボン

 

 

 さる十月の某日、吉祥寺の霧とリボンさんに訪ってまいりました。

 

 ところでこの霧とリボンという菫色の霧の薄絹をまとった場所を友人にお話するとき、わたしはこんなことをいいました。そのことをよく覚えていて、わが言葉ながら忘れられないのでそのことから綴らせていただきたいと思います。

 

 「あの場所は王家の谷みたいなところよ。エジプトのファラオのためにお墓のことをそう呼ぶでしょう? わたしは霧とリボンというお店の内部にはりめぐらされた美意識にふれると、いつも王家の谷みたいだなと思うの」

 

 たとえば、ルネ・ヴィヴィアンという詩人がいます。菫の美神と呼ばれた彼女は「我百合に倦み、薔薇にも疲れぬ。」といい、菫の花に加護を求め、愛したかたです。霧とリボンのなかを見まわせば、彼女のお写真が美しき遺影として、あの菫の館の女主人であるミストレス・ノールさまが彼女のために捧げた作品が壁に麗しき想い出として飾られています。《ポーリーヌ・T〜縁飾りの目録》と名づけられたそのオブジェ作品の「ポーリーヌ・T」とはポーリーヌ・メアリ・ターンのこと、すなわちルネ・ヴィヴィアンの本名であり、ヴィヴィアンの人生のなかで岐路となった出来事を縁飾り(衣服の断片)と三編み(遺髪)に託し、記憶の目録にしたものなのですが、わたしはノールさまのおつくりになられたあの作品が、ルネ・ヴィヴィアンという《女王》の墓に供えられた財宝や装飾品や、そして花束のひとつのように思えてならないのです。

 

 ルネ・ヴィヴィアンだけではありません。ナタリー・クリフォード・バーネイ、ヴァージニア・ウルフ、エミリー・ディキンソン……。あの場所のいたるところにその《遺影》を発見することのできる《女王》たちは、それぞれにみな、わたしの大好きな女性たちです。霧とリボンという場所は、あのうるわしき精神の女王たちのうつくしき墓のようにわたしには感じられてなりません。装飾品も絵画もオブジェもすべては彼女たちに捧げられ、彼女たちと《魂》をおなじくするあらたな現代の《女王》となるべく資質をもった者の手によって見いだされ迎えられるのを——「発掘」されるのをじっと待ち望んでいる。すこしずつ《女王》となってゆくの「彼女」の身を飾ることこそが、最大の至福であるというように。だから霧とリボンの装飾品を身につけるとき、とても緊張します。この《遺品》にこめられた祈りにふさわしいわたしであることを、身にまとうたびふさわしいわたしになることを、わたし自身にお祈りしながら。

 

 

 ながい前置きになりました。

 

 十月の霧とリボンさんは銀座ボーグさんとのコラボレーションにより、オリジナルのお帽子が発表されました。「ロメーン」「ヴァイオレット」「シルヴィア」とお名前のつけられたみっつのお帽子は、「自身の感性に誠実に、自由に生きる気概を持った」架空の女性たちの物語を帽子によって表現し、それを纏うことによってあなたもそのお話の女たちのようにうつくしくうるわしく、そして自分自身の「背骨」をもち、肩甲骨から想像力の翼を生やして優雅に人生を歩いてゆこうと、そんな心意気が感じられました。

 

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 また、企画にあわせて展示されたジョルジュ・バルビエによるファッション・プレートの三美神には見惚れるばかりでした。わたしの記憶がただしければ、三美神とはそれぞれ愛、慎み、美をつかさどっているはずですが、この美しく麗しい女神たちは「優雅で野蛮」という言葉がよく似合います。けれども慎みなどとは無縁みたいに見えながら、この女神たちは誰よりも心に慎みというものをもち、大切にしているようにわたしには感じられ、「夜になっても遊びつづけろ」的な精神を遂行しながら、けっして彼女たちは「野蛮」ではなく、それはあくまで「優雅な野蛮」なのです。

 

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 「物語」を身につけようというコンセプトのもと、ここで販売されているお紅茶にもそれぞれ物語が宿っています。ブック型の函をひらけば、そこには物語の香りが。わたしはシャーロック・ホームズから連想された「モリアーティ・ロンドン」がお気に入り。見目麗しいうえに、素晴らしいお味なのです。

 

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 nichinichiさんのアクセサリィ、シャラシャラシリーズの指輪と耳飾りをお迎え。シャラシャラと指から手の甲にながれてゆく優美さには目を奪われてしまうこと確実です。

 

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 おうかがいしたおり、偶然ご一緒する僥倖に恵まれた漫画家の鳩山郁子さん(お帽子で貴婦人ごっこをされている麗人がいらっしゃると思ったら鳩山先生だったのです!)のご本、『寝台鳩舎』の初回生産版に付属されていた切符型の栞と、霧とリボンさんでいただいた入場券を、記念にいっしょにお写真におさめました。入場券は三枚のカードから選ぶことができ、わたしは《美》をつかさどる位置に佇んでいらっしゃるこの女神を。いつもうつくしくうるわしい展示に心から感嘆いたします。