星の巡礼/Silent Music

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 金木犀の香りがしました。

 

 夏の光輝のなかで朽ちていったなにかが骨のごとく浮き彫りになる秋の空気のなかに浮遊するように漂うその芳香はなぜだか懐かしさを誘い、実際には存在しない遠い過去を想起させます。遺伝子に組みこまれている郷愁みたいに、その香りを吸いこむわたしたちに、漠然とどこかに還りたいという感情さえ呼び起こします。「どこか」とはわたしたちがこの青い星に生まれるまえに棲んでいた、遠い星のことなのでしょうか。

 

 東中野のSilent Musicさまへ目指すみちを歩きながら、金木犀がわたしの顔に甘い吐息をおとしました。あのちいさな黄金の花が集って毬のごとくまるみを帯びるさまは、まるでひとつの星のようです。それはわたしたちが遙か彼方、羊水の宇宙のなかで眠っていた星なのかもしれず、だから金木犀はわたしたちをノスタルジアに誘うのかもしれません。

 

 マリアさまのお庭に訪う途中のみちであの花の名を胸のなかでこだまさせたのはきっと偶然ではない。音楽室でもありながら美術室でもあるあのお部屋は、この秋、星たちが棲む宇宙の入り口となっていたのですから。

 

 「星の巡礼」展は、伊豫田晃一さん、志田良枝さん、鈴木美絵さん、永井健一さん、ポオ エ ヤヨさんの作品によって紡がれた企画展でしたが、わたしにはそれがクインテットで奏でられる音色のようにも感じられました。五人のなかの誰かおひとりでも欠けていたら調和が崩れてしまったかもしれない音楽のように。かれらの絵は、わたしに世界の謎を囁きかけてくれるようでした。まだわたしが到達していない神秘をほんの少しだけ教えてくれるというように、宇宙の断片を切りとって「これが世界の欠片だよ」と絵のむこうからそれぞれ打ち明けるように微笑んでくれる絵のなかに隠された「秘密」に耳を傾けるみたいに、わたしはまさに巡礼のごとく旋律と戦慄に瞬く星々のなかを渡り歩いていました。

 

 「巡礼」の輪のなかからはずれて、おいしいお紅茶と金平糖をいただいたことも、とても美しい時間としてわたしのなかに残っています。お皿にならべられた金平糖で菫色の夜と乳白色の天の川みたいな星々の煌めきをつくられる、マリアさまのお庭のあるじであられる恵子さまの心づかいのうつくしさに、わたしはとても感動してしまいましいました。あのお部屋の心が浄化されるような空間は、そういったこまやかさから生まれた清らかさなのだと感じます。この天上界につながっているみたいなお部屋が、この地上に存在するというだけでもひとつの奇跡のようです。

 

 久保田恵子さまの音楽集&ご本、『銀河鉄道の夜から聴こえてくるもの』をお迎えしました。志田良枝さんのポストカードはおみやげに。

 

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