ノスタルヂックブートニア/点滴堂

 

 

 点滴堂さんにはいま、切ないほどの郷愁に満ちた時間が流れています。いいえ、《時》は流れていない。あの空間にある時計はどれもがみな、誰かが置いてきた「過去」のなかで長針も秒針もとまっている。そこにひろがる記憶の屋根裏部屋で、あなたがあのころに失くしてしまったものたちが眠っているかもしれない。あなたが迎えにきてくれるのを待っているのかもしれない。

 

 ノスタルヂックブートニア。

 

 過ぎてしまった甘やかな時代の時函を、埋葬するように捧げられた小さな花束。幸福な日の黄金の昼下がりが閉じこめられたその場所の扉をひらけば、あなたは《少女》のころの自分を想いだす。

 

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 この催しは、KiNNOi さん、&FLOWERさん、天使匣さんの三人展です。 

 

 幸運に恵まれ&FLOWERさんのご在廊される日に訪うことが叶えば、自分の好きな布花を「お花摘み」して、ブートニアの装飾品をおつくりしていただくことができますし、まるで虹色の粉を肢体からふりまいているような天使匣さんのお人形を拝見することもできます。このお人形は企画展のあいだはいつでも逢うことができるようですが、これは妖精王の少年と少女アリスの人形劇のようになっていて、お話がすすむごとにドールたちのポーズも変わるようです。

 

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 わたしがこの目で見ることが叶ったのは、この場面。

 

 万聖節の宵、すべてのものが曖昧になりあの世とこの世の境目がなくなります。魔界も精霊界も人間界もとけあって世界がひとつになるその日に、妖精王は少女を拐いにやってくる。少女の名は、アリス。そう、特別な少女のあかしをその名前に宿した彼女は、幼いころに妖精王とある約束をしていたのです。それを信じ、かれが迎えにきてくれるのを、ずっと待っていた。けれども妖精王には迷いがあるようです。彼女をほんとうに自分とおなじ世界の住人としていいのか、それは愛するひとを苦しめる結果となるのではないかと。——これは妖精王とアリスのドールを目に映しながら、わたしの頭のなかでふくらんだ妄想の綿飴の一部です。シューベルトの『魔王』みたいな《魔》との交感も、それが心やさしき「妖精王」に置き換われば、それは儚さすら感じられる切なさの恋の物語となる。妖精王とアリスがどのような結末を迎えるのか、とても楽しみにしています。

 

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 この記憶の屋根裏部屋の棚には『星の王子さま』の薔薇もならんでいました。彼女は王子さまを待っているのでしょうか。かれがけっして迎えにはこないことを知りながら。けれどもかれが迎えにこないかぎり、彼女はいつまでも王子さまを待つことができるのです。そんなことを思いながら、空間がつくりだす切なさに美しく可憐に融けあうこの薔薇が、わたしには愛おしかった。

 

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 突然思い立って、点滴堂さんで販売されている花霞堂さんのレターセットでお手紙も綴りました。この空間で便箋に文字を刻むのは、もう何度目のことになるでしょう。あの場所で綴るお手紙には魔法がかかるように、わたしには感じられるのです。おいしいカフェオレと、白いお部屋がつくりだす魔術です。

 

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 誰かの記憶のノスタルジアを採集してまいりました。