希求

 

 

 欲しいものはたくさんあるの。

 

 矢野顕子さんの『ひとつだけ』という歌は、そんなふうにはじまります。

 

 ≪きらめく星くずの指輪
  寄せる波で組み立てた椅子
  世界中の花 集めつくる オーデコロン≫

 

 わたしなら、そこになにを当て嵌めるだろうと考えてみました。

 

 ピアノカクテル、ジョセフ・コーネルの箱、ドナルド・エヴァンズの切手、アンディー・ウォーホルが描いた靴、ハートの女王がつくったパイ、アナイス・ニンの日記帳、サファイアの瞳をした黒猫、白い錠剤のような月、雨の音色を閉じこめたヲルゴオル、夜空に浮かぶ虹、人魚の涙でできた貝殻。それから、それから。

 

 十二月にもこんな話をしましたね。

 

 サンタクロースが贈り物をくれるなら、なにをお願いする?

 そのときもたぶん、わたしはおなじようなことをいいました。

 そして無茶なものばかり求めるわたしを、あなたはかぐやひめのようだと苦笑されました。

 

 「サンタクロースを困らせて、火鼠の衣なんてお願いしないようにね」

 「大丈夫。わたしはそんなもの、ちっとも欲しくないから。わたしがほしいのは、なによりもまず、美しいもの。そのうえで現実と幻想にあわいにあるもの。けっしてこの手で触れられないもの」

 

 ほしいものはたくさんあるの。

 

 でもきっと、それを手に入れてしまったら、ただのガラクタになってしまう。

 わたしはわたしの求めるものが、絶対に自分のものにはならないようにと願います。それがいつまでもきらきらと光り輝いていられるように。

 

 ≪欲しいものは ただひとつだけ
  あなたの心の 白い扉 ひらく鍵≫

 

 もしもいつか誰かの胸の扉の内側に忍びこみたいと思うことがあったとしても、わたしはその鍵が永遠に見つからないことを願います。それならいつまでもその扉のまえで、やさしくノックしていられるでしょう? そしてその誰かがそれに応じて「どうぞ」と自ら扉を開けてくれたとき、なにが待っているのでしょう。ほんとうはね、そんなことは望んでないの。扉はいつまでも閉ざされたままでかまわない。

 

 扉のむこうになにがあるか。それを想像する時間こそが、ふくらんだ蕾が朝露をこぼしながら吐息するみたいにそっとひらく、花の時間であることを知っているから。花は咲いてしまったら、枯れるしかない。扉のむこうになにがあるとしても、それはわたしが想像していたものよりも素敵なものだとは思えない。

 

 こんなふうに考えるわたしは、少しおかしいのかしら?

 

 でもね、願いは絶対に叶わないからこそ美しくて尊いものだと感じてしまうの。
 だけどもし、K、あなたが心からなにかを願うなら、それが叶ってほしいと思ってしまう。矛盾してますね。わたしは矛盾だらけ。

 

 

 (Kに宛てたいつかの手紙の断片から、22)