ねえ、愛ってなんなの?

 

 

 『百年の孤独』という書物の、《孤独》とはなんだろう?


 これは血族の物語だ。

 「マコンド」という舞台でおなじ家で引き継がれる、おなじ遺伝子、おなじ名前。

 うつつとまぼろし、此の世と彼の世の境界線があいまいで、かれらはあちらとこちらの領域を踏みこえ、ときには飛んでいってしまう。


 《孤独》とはなにか。ジプシーのメルキアデスは予言する。「百年たたないうちは、誰もその意味を知るわけにはいかんのだ」

 

 その一本の太い流れが育ってゆくのは、樹木が根をおろすのと似ている。


 はじめは若木だった、苗だったそれが枝を伸ばし葉を繁らせ、次第に空を覆うほど大きくなって壮大な天蓋をつくる。樹が風に揺られてきぬずれみたいな音を鳴らしているうちに、その音が強力なパイプオルガンの響きのように変化して降りそそいでくるのに耳を澄ましながら、わたしは樹液の川を泳ぎ枝の迷路を進んで、樹がつくるミクロコスモスのなかに完全に意識をうずめるのだ。

 

 はじめての花をつけて果実を生み落としたとき、雷に撃たれてその樹が倒れるまで。


 錯綜した家系図、複雑な構造。

 それは大木でありながら、わたしはその巨大な樹のなかの一枚の葉を見ているに過ぎなかったのかもしれない。陽に透けると白い骨が浮きでる葉脈の迷宮。おおきな樹を巡回し冒険しているようなつもりでいたのに、わたしが眺めていたのはたった一枚の葉っぱだった。


 無数の挿話。無数の骨。それが枯れて地におちるとき、無数の葉に埋もれて、塵となり消える。すべては土に還る。《孤独》とは百年のあいだに降りつもった、葉のきぬずれの音のことだと、わたしは思う。


 いま、マルケスに問いたいことはひとつだけ。

 

 

 「ねえ、愛ってなんなの?」

 


 ガブリエル・ガルシア=マルケス/鼓 直訳 『百年の孤独』  新潮社/改訳版

 

 

百年の孤独 (Obra de Garc´ia M´arquez)

百年の孤独 (Obra de Garc´ia M´arquez)

 
百年の孤独

百年の孤独