バレエ詩集vol.1~ラ・シルフィード/霧とリボン

f:id:tukinoyume:20170924125222j:plain

 

 あなたはシルフィードを知っていますか。

 

 それは妖しの精なる者の名前です。人間の男を愛したために、美しい罠みたいな笑い声をたてながら独楽のように回転し、男を自らの領域である森へと誘う。愛のために流星のごとく命を燃やし儚くなった、その妖精の名。

 

 このたびの菫色の小部屋の催しは「バレエ」を主題とされて、『ラ・シルフィード』を筆頭に、菫色の小部屋こと霧とリボンの女主人であらせられるミストレス・ノールさまが以前に『死都ブリュージュ』に触発されて制作された作品が、あの《美》の観念そのもののような場所に展示されていました。

 

f:id:tukinoyume:20170924125217j:plain

f:id:tukinoyume:20170924125223j:plain

f:id:tukinoyume:20170924125151j:plain

 

 華麗に惜しみなく《美》を享受させてくれるこの空間にいるだけで、あの小部屋に宿った美意識を霧のごとく纏い浴びることができるような、そんな陶酔的な錯覚がわたしを襲う。それはまるで菫色の沐浴とでも名づけたいような至福のひとときで、あの場所へ訪うと、完全な美がデリケートに統御された優雅な空間にいつまでも浸っていたくなってしまい、離れがたく、なかなか立ち去ることができないのです。どの作品を拝見しても心を震わせてくれる奇跡に感謝をこめ、どの作品をも目で愛したいという気持ちになるおのれの心の動きに、ただただ驚くばかり。これもノールさまの《魔術》によるものなのでしょう。

 

 悲劇的な愛の物語は霧のように結ばれたリボンのごとく絡みあい、けっしてほどけない破滅へと恋人たちをいざなう。霧とリボンはその恋人たちの最期の場所であり、白昼の幻視みたいにかぎられた時間だけわたしたちのまえに出現してくれる、恋人たちの血も妖精の毟られた翅も廃墟となってゆく都も養分として花ひらいた、甘美な菫なのです。

 

f:id:tukinoyume:20170924125144j:plain

 

 霧とリボンをこよなく愛する紳士淑女の嗜みのひとつとなりつつあるnichinichiさんの装身具。この蝶の翅が、なぜだかわたしには妖精の翅のように感じられてならなかった。あるいはシルフィードの森を彷徨う蝶々のように。

 

f:id:tukinoyume:20170924125146j:plain

 

 展示に足を運んで記念にくださった鑑賞チケット。この心配りの美しさにこそ、あのお部屋の精神は宿るのだわ、と感激に堪えないわたしです。

 

f:id:tukinoyume:20170924125218j:plain

f:id:tukinoyume:20170924125220j:plain

 

 霧とリボンで奇跡的にまだあるじとなるべきかたが迎えにくるのをお待ちしている山口友里さんの片靴のオブジェ。あまりにも魅惑的で神々しさすら感じられます。いつか山口さんの片靴をお迎えするのは、わたしの夢のひとつ。……なのだけれども、山口さんがまた制作されるか現時点では不明なので、ほんとうはこのお靴をお迎えしたい気持ちでいっぱいなのです。わたしを待っていてくれたら嬉しいと不遜なことをすこしだけ考えながら、訪うたびに菫色のため息をこぼしています。