永遠の少女標本(9)――オフィーリア

 

 オフィーリア(Ophelia)

 

 ウィリアム・シェイクスピア著『ハムレット』の登場人物。


 不信の少女。

 

 
 これは罰なのでしょうか。

 あのひとの心を疑ったわたしへの。

 

 あのひとの心は高潔でした。その愛は黄金でした。

 それなのにわたしは、その気高さに不信を抱き、その真心を贋金だと思ってしまったのです。すべては人に、囁かれるままに。

 

 わたしが愚かで、浅はかでした。わたしはわたしの心だけを信じればよかったのです。そしてわたしを信じてくださるあなたを、信じるべきでした。

 

 あのひとは失望したのです。あのひとの貴さ、清らかさに、わたしがふさわしい女でないことを知って。ああ、そうよ。そのとおり。わたしはあなたの魂に見合う女ではなかった。

 

 なによりも信じなくてはいけなかったあなたを、信じなければいけないとき、信じてあげることができなかった。心に贋金をもっていたのは、わたしのほうでした。

 

 あのひとはいってしまった。わたしから永遠に去ってしまった。失ったものはもう二度と、わたしの腕のなかに戻ってこない。

 

 せめて花を、わたしたちの恋みたいに、枯れるまえに散ってしまったその花を、世界中に散らすわ。あなたのために捧げるわ。純潔を散らし、捧げなかったかわりに。

 

 そして歌うわ。わたしの魂を声にのせて、それがあなたの心に寄りそうことを夢見ながら、わたしは湖に溺れてゆくの。沈んでゆくの。わたしの歌声のように壊れやすいシャボンみたいな、幸せだったときの夢といっしょに。

 

 いまこの瞬間、わたしの願いはただひとつだけです。

 

 どうかわたしを忘れないで。どうかわたしを覚えていて。あなたの胸の内側に残るわたしが、どんなに醜悪な女であったとしても、かまわないから。



 ジョン・エヴァレット・ミレイの絵画、『オフィーリア』に描かれた花の花言葉をならべると、こうなる。――「叶わぬ愛に苦悩した無邪気で純潔な乙女が、悲しみのまま若い死を遂げる。彼女の願いはたったひとつ。男が自分を忘れないこと」