わたしのお医者さま

 


 「わたしは狂ってるってお医者さまはいうのよ」という言葉からはじまる古い異国の歌があるのよ。その歌のつづきをソフトクリームをほおばりながら、くちずさんで聴かせてあげたい。だれに? あなたに。


 女の子には誰にでも自分だけのドクトルがいるのだと、わたしは思うの。

 

 彼は(あなたは)彼女に(わたしに)とても興味をもっていて、それがいささか想像力の充血の様相を呈し、彼女の(わたしの)カルテでもつくれそうなほどに熱心に話を聞いてくれ、おまけに治療さえしてくれようとするから、それに対する感謝のあまり彼女は(わたしは)喜んで患者のふりをするの。

 

 詳細な診断結果が綴られた診察記録にはこんなことが書かれてる。

 

 (わたしは)彼女は笑い病を患い、(わたしは)彼女は頭を幾重にも夢で繃帯されて、(わたしは)彼女は嬉しいと眩暈を起こして倒れ、(わたしは)彼女は手に負えないくらいに虚言も吐く愛すべき嘘つき。そんなふうに。――それがあなたの答えなの?

 

 なれといわれたら、わたしはなんにだってなれるのよ。

 

 猫にも、修道女にも、トランプのハートにも。

 もちろん、あなたの患者にだって。

 

 あなたはわたしのお医者さま。

 誰よりも強い関心を、わたしにもっているものね。

 その関心を、わたしは愛だと認めてあげる。だから愛のもつ治療作用に身をゆだねさせて。


 手術台みたいな冷たいベッドで、わたしを解剖して。

 夜にはふたりで満月を見て、空に浮かぶ白い錠剤をわたしにのませて。

 そしてわたしが夢に魘されたら、けっして起こさず額にキスして。

 

 この手のかかる患者の診察記録を毎日記して、わたしのことを想像して。どんな人間か、それとも人間じゃないのか。

 

 なにが好きで、なにを思い、どうして泣くのか。

 よく見て、聞いて、考えて。

 

 その診察記録が一冊のノートになるころに、お医者さま、わたしもあなたを愛してあげる。