永遠の少女標本(8)—―大姫

 

 

 大姫(おおひめ、1178年ー1197年8月28日)

 

 鎌倉時代初期、源頼朝北条政子のあいだに生まれた女性。

 


 かくれんぼの少女。

 


 六歳のとき、彼女は縁戚関係にあった十一歳の源義高と婚姻を結んだ。

 

 稚い花嫁。それは結婚とは名ばかりの、「おままごと」であったはずだった。彼女の大切な背の君は、「人質」として彼女の婿になったこと、それが束の間の幸福であったことを、そのちいさな花嫁が知るはずもなかった。

 

 しかし彼女はおさなくとも、心はすでに「女」だった。全身全霊でひとりのひとを愛した。

 

 あの日々は虹色。透明に浮かんで罅割れて消えた。

 

 あんなに脆い泡だと知っていたなら。
 あんなに儚い幸だと知っていたなら。

 

 愛するひとは討たれて死んだ。彼女の父の手によって。

 

 そんなことが、ゆるされるのでしょうか。

 あなたたちはあまりにもわたしを、幼く甘く見すぎていました。

 この年齢で、自らの命を奪うほどの愛を心に宿すことはないと、高を括っていた。

 

 わたしはあのひとの「女」です。あのひとだけの。

 

 生きて。ただそれだけを願った。ともに生きられなくとも、あなたのいのちさえご無事なら、またふたたび巡りあうこともできましょう。一度は夫婦の縁を結んだ、わたしたちの仲なのですから。それだけを祈ってあのひとを逃がした。それなのに。

 

 そのたったひとつの希望が抹殺されたとき、彼女は心を病んだ。

 

 彼女の時間は六歳のままとまった。あのひとの「妻」のままで。

 

 どこにいるの、わたしのあなた。隠れてないで出てきてください。かくれんぼはもう終わりですよ。

 

 そんなふうに笑いながら、亡きひとを探して屋敷の広い庭を彷徨ったという彼女。

 

 二十歳でこの世を去ったとき、長い永い「かくれんぼ」は終わり、彼女はようやく愛するひとの腕のなかに還ることができた。