銀木犀の刹那の切なさ

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 わたしの銀木犀の乙女がお慕いし憧れているかたに、妖さんというイラストレーターをされていらっしゃるひとがいます。銀木犀が折に触れてそのかたが紡がれる世界のお話をしてくれ、それがまたとても興味深いので、わたしもついに彼のかたの作品をお迎えしてしまいました。――『モノクロ水族館』と『夢蝕の植物図鑑』という、あまりにも繊細な線(それはまるで無色に夢蝕に色を失い絡みあった赤い糸のよう)に魅せられずにはいられない、画集であり短篇漫画もおさめられている二冊の書物です。

 

 ところで銀木犀が大切にしている観念のひとつに、「せつなさ」というものがあります。切なさ、刹那さ。それは薔薇の棘で心臓を刺され、そこから甘美な毒が巡るような痛みで、美しいもの、とりわけ「かわいい」ものには必ず付随する、付随しなければいけない言葉であり、せつなさを感じたとき心臓から生じた痛みは甘やかな結晶となって、瞼の裏側に刻みつけられる衝撃となり、あらゆるものが浄化された透明な涙としてこぼれ落ちる。とどめきれなかった「せつなさ」が、おのれの目のなかで無色の(夢蝕の)球体となってあふれるとき、銀木犀は「せつなさ」を感じさせてくれた相手――それが人であれ、絵であれ、物語であれ――に二文字の母音の贈り物を捧げるように、そのものを慕い、憧れ、敬う。銀木犀の《愛》とはそういうものなのではないかと、わたしは漠然と皮膚で感じています。

 

 そして妖さんの『モノクロ水族館』を読み終えたとき、わたしはたしかに銀木犀とおなじ「せつなさ」に甘く刺される心臓の痛みを感じないではいられない自分を発見しました。それがわたしの胸の内側を波立たせ瞼の裏で騒めく《海》の気配を感じたとき、わたしは我慢しきれず『夢蝕の植物図鑑』と題されたもう一冊の本にも手をのばし、少しずつ大切に読ませていただこうと思っていた彼のひとの書物を、たった数時間で目で貪欲にたいらげてしまった。

 

 このいい知れぬ「せつなさ」――切なさ、刹那さは、たしかに実際に目で触れてみないとわからない。ひとつだけいえることは、銀木犀がなぜあんなにもこのかたを愛するのか、その理由の一端を理屈ではなく感じることができた、ということです。こよなく美しいものをつくられるかた、そしてお名前のとおりに妖しい世界を構築されるかた、わたしにとっても愛をそそぐことのできるかたをあらたに知る機会に恵まれたことは、またわたしの新しい扉がひらかれたようで、とても嬉しい。

 

 いつも美しい刺激をあたえてくれるあなたに感謝をこめて。

 

 

 * 妖 『モノクロ水族館』/『夢蝕の植物図鑑』 

イラストレーター妖 / OFFICIAL WEB SITE