山茶花の天使の羽根

 

 

 わたしの山茶花の少女から、お手紙と贈り物が届きました。

 

 お手紙も贈り物も、わたしのためにとあの子が心をつくしてくれたことが嬉しい。美しい友人のなかに、わたしのことだけを考えてくれている時間があったことが嬉しい。薔薇ビーズの十字架とマリアさまのメダイのブレスレット——このアクセサリィがわたしに似合うと思ってくれたことが嬉しいのです。

 

 なぜあの子が山茶花なのかというと、山茶花はいちまいずつ花びらが散り、あの透明な天使の羽根みたいな花びらが土に落ちるとき、そこから世界が不思議な力で浄化されてゆくようにわたしには思えて、そんな山茶花みたいに清廉潔白なあの子の心は、世界をきよめているその花びらのように幻に透けそうなほど白いとわたしは思うから。

 

 その山茶花が、長いお手紙の最後を飾るように花霞堂さんのチョコレイトのタブレット一筆箋のなかで、こんな言葉を寄せてくれました。

 

 

 「みなもの冬」

 春をあたためるあなたの吐息が静かな夜の中でまゆの色に変わる時、きっと私の冬は訪れる。どうかあなたのまつげに触れる真白の雪が、コーヒーのミルクよりもあたたかな清い色でありますように―――。

 

 

 あの子のうつくしい文字を見ていると、ほうっとため息をつきたくなる。あの子そのもののような水が流れるように清らかな字。あの文字を見ていると、心がとても落ち着くし、あの子の文章を読んでいると、わたしはある詩を想いだします。

 

 西脇順三郎の『宝石の眠り』

 

 

 

      永遠の
      果てしない野に
      夢みる
      睡蓮よ
      現在に
      めざめるな
      宝石の限りない
      眠りのように

 

 

  彼女の言葉は石の眠りの記憶みたいなところがある。そこに青く碧く刻まれた古代の碑文のようなところが。宝石の眠り。鉱石の眠り。大理石の眠り。それが永劫の微睡みのなかで、「かつて」の記憶を抱きしめながら「いつか」の目覚めを待っている。固く閉じた石の蕾が山茶花の「天使の羽根」のようにほころぶとき、そこからどんな煌めきが言語となって朝露のしずくのようにこぼれおちるのか楽しみにせずにはいられないような、世界にむかって愛を謳うあの子の微笑み。

 

 あの子がわたしのために綴ってくれる言葉がいつも、わたしの心に巣のなかの雛鳥にかえったような懐かしさと安らぎを感じさせてくれるように、あの子の祈りはきょうも誰かの心を温かい羽毛で満たしているのだと思う。

 

 

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 (ある少女からの手紙、2)