異星

 

 


 「きみはまるで宇宙人の娘みたいだ」

 

 小娘のころに、そんなことをいわれたことが幾度かあるの。

 いまでもわたしのなかに焼きついている言葉たち。

 

 わたしに正体というものがあるなら、それを見破られてしまったかのような驚愕と戦慄を、そのたびに感じたものでした。

 

 満座の席で、とりかえしのつかない失敗をしでかした犯罪者のような気持ち。

 

 あれはどういう意味だったのかしら。

 

 体内に青い血が流れていそうだと、そういうことだったのか。それともおなじ意味かもしれないけれど、相手には理解しがたいことばかり話しているわたしという人間が、人間ではなくて異星からの来訪者のように、もしかしたら見えたのでしょうか。
  
 あのころ、土星の夢をよく見ました。

 

 あまりにも頻繁に見るものだから、土星がわたしに親しみを抱いていると勝手に解釈して、あれがわたしの故郷なのかもしれないと、馬鹿なことを考えたものです。たぶん、誰もが潜在的にもっている感情だと思うけれど、どこかにかえりたいと祈りをこめて思うとき、わたしの瞼の裏にはあの土星が浮かんできました。

 

 かぐや姫が月にかえったように、わたしもいつか土星にかえるのかもしれないと、ほとんど夢みたいなことを、半ば本気で考えたものでした。中学生のころの話です。

 

 誰かとのあいだにどうしても理解し合えない齟齬が生じたとき、「なぜかといえば、それはわたしが土星びとだから」とヴェルレーヌの詩のようなことを思っていました。そしてそのせりふとまったくおなじことを、いまでもときどき胸の内側で呟いてしまいます。

 

 土星のことをよく知らなくて、あの環がきれいだとしか考えていなかったころだったので、わたしはその星にいろいろな名前をつけました。わたしの愛だとか夢だとか未来だとか。いまとなっては信じられないお話です。たぶんあの憂鬱な星は、たしかにわたしのなにかを予兆していたのでしょうね。

 

 K、あなたはご両親にさじを投げられるとき、金星人だといわれていたとのことですが、火星ではなく土星でもなく、あえて金星をもってくるあなたのご両親の感性に、わたしは興味を覚えます。息子を異星の生き物だと見放すようなことをいいながらも、しかしそこにあなたのご両親の愛が、わたしには見えるような気がするから。だって金星は愛と喜びの星だもの。

 

 わたしはとまらないしゃっくりみたいに口を開くと馬鹿なことをいいかねなかったから、なるべく口を閉じてにこにこしていたのだけれど、それでもうっかり油断しているわたしの様子から土星びとであることに気がつく鋭いひとはいたし、どうしても自分の意志をつたえなければならないときがあって、そのときには宇宙人の娘だとかいわれてしまうのでした。 

 

 だからわたしのように隠そうとしても正体を見破られてしまうような人間とは違って、宇宙人といわれようとありのままの自分でいられるひと(あなたのことです)を、わたしはとても眩しく思うのです。

 

 

 

 (Kに宛てたいつかの手紙の断片から、10)