永遠の少女標本(5)――レオノーラ・キャリントン

 

 

 レオノーラ・キャリントン(Leonora Carrington、1917年4月6日ー2011年5月25日)

 英国生まれの画家、彫刻家、小説家。メキシコにて死す。


 世界の秘密をさがした少女。

 


 マックス・エルンストに愛された彼女は、かれに《風の花嫁》と呼ばれた。

 彼女が上梓した『恐怖の館』という書物に、エルンストはこんな序文を捧げている。


 "「風の花嫁」とは誰だろう? …花嫁は激しい生命と神秘と詩を燃料に、肉体を暖める。彼女は本を読んだことはないが、すべてを飲み干した。花嫁は文字を知らない。だがナイチンゲールは、花嫁が泉の石に腰かけて、読書しているのを見た。自分に朗読していたのだが、動物や馬が近づいてうっとり聞き惚れた。それは花嫁が、あなたたちが今手にしているこの真実の物語、美しい言葉で書いた誠実で純粋な物語『恐怖の館』をよんでいたからだ。"


 シュルレアリストたちの「ファム・アンファン」と呼ばれた彼女。無邪気な女。つまり、大人になることができない女。

 

 彼女は永遠に無垢なる少女のままで、成熟を拒まなければいけない。それが愛するひとの望みだから。いつまでもあなたの《風の花嫁》、いつまでも「世界」になじまない女の子。


 けれどもある日、突然目覚めはやってくる。

 

 ほんとうにそれでいいの? と《わたし》がわたしに囁くから、だからあのひとのもとを永久に去った。わたしのなかの永遠の《少女》を殺した。

 

 ひとりの女が真の「芸術家」に変身するためには、そのような切断の痛みが必要だった。少なくとも、彼女の場合は。


 おのれのなかの少女を葬った彼女は、《魔女》になることに決めた。
 民話や神話や伝説を幻想で塗り替え、そこから世界の秘密を知ろうとした。その神秘を。


 なんの変哲もない日常のなかにだって、世界の秘密と神秘は隠されている。《扉》はいたるところにあるから。それにみんな、気づかないだけ。そういって彼女は笑う。

 

 ちいさなころからいつも反抗的な子だといわれてきた彼女は、世界に反しようと思ったことなど一度もないのかもしれない。ただ受け容れたかっただけだ。まだ知らない、世界のことを。

 

 

 家に気に入らないお客が訪ねてくると、わざと髪の毛の入ったオムレツをつくって食事に出したり、そのひとの靴の内側にからしを塗ったというキャリントンは「無邪気な女」といわれることを拒みながら、真に無邪気な《少女》だった。

 

 おなじく画家のレメディオス・バロと《秘密》で結ばれた共犯者的な関係にあり、ふたりの「遊び」の数々は、バロの著作『夢魔のレシピ―眠れぬ夜のための断片』に詳しい。

 

 

 ※引用
 『恐怖の館』レオノーラ・キャリントンマックス・エルンストの序文より)