秘密

今年最後の儀式

わたしは「儀式」という言葉が好きです。新月の夜の願いごと、紅茶に浮かべたおつきさま。そんなロマンティックなおまじないのようなものも、そして考えてみれば毎日のお化粧だって、ある種の儀式みたいなもの。そんなふうに感じます。このルージュはわたし…

エミリーと庭の小道/草舟あんとす号

去る二十三日、植物の本屋さんである草舟あんとす号さんから、お願いしていたご本のご入荷のお知らせがひと足はやいクリスマスの贈り物のように、わたしのもとに届きました。バーバラ・クーニーが挿絵を描いた絵本、『エミリー』——このご本はどうしてもあん…

星降る夜のクリスマス/点滴堂

点滴堂さんで「星」と名のつく展示のたびに、近ごろではタイムトラベルマドレーヌさんのタイムトラベル郵便が開催されています。 これはまず、自分に幸運をあたえてくれる星座や星雲のおみくじをひき、自分自身にお手紙を書いて点滴堂さんのご店主さんにお渡…

猛禽

何度も繰り返すようですが、男のかたはほんとうに大変だと思います。 わたしが男のひとだったら、たったひとりの「巫女」のための神さまになるのは無理そうなので、猛禽の一族になりたいと感じます。 宇宙船のなかから暗黒の銀河を眺め、ときどき月や金星に…

尼僧

神と巫女の関係のまま終わりを迎えた幸福な例は、与謝野鉄幹&晶子夫妻とか、武田泰淳&百合子夫妻とか、わたしには「神―巫女型」のご夫婦のように思えます。 そういえば「神—巫女型」は父娘にもいて、森茉莉やアナイス・ニンはお手本どおりの「父の娘」なの…

アール・デコ・シリーズ企画展 II /霧とリボン

このたび吉祥寺の菫色の小部屋こと霧とリボンさまのコラボレーション・レーベル設立の意味もこめられた記念すべき企画展の初日に、おともだちと駆けつけました。 その名も《Modern Mauve Flapper/モダン・モーヴ・フラッパー》——略してMMFと菫色の淑女たち…

閉ざされた蜜の部屋――志田良枝さんに宛てて(1)

花が棲む。わたしの心臓に植えつけられた種子は幻想の芽を宿し幻惑の花びらを綻ばせる。その花の蜜に閉じられた黄金の部屋に姿を隠す精霊が、わたしに囁く夢をみる。眠りのむこうから彼女が呼ぶとき、おのれの伏せた目のなかに妖しく美しい花の幻影を視る。—…

十三月の約束

二十歳を過ぎたころから、自分自身のために小説を綴っていました。たとえるならばそれは自己治療的なセラピーの一種で、わたしはわたしを慰め癒すために物語というひとつの夢を築き、そこに耽溺することでこの世界に座標軸をさだめた肉体とわたし自身の名を…

巫女

「飛んで」しまった少女というと、わたしはまず矢川澄子を思い浮かべます。 矢川澄子の著書を何冊か読んだくらいの知識しかないので、これからお話することは見当違いであることを承知で聞いてやってくださいね。 手触りとして、わたしは矢川さんの文章から…

黒衣の女へ/Le petit parisien

先月のことになりますが、坂上アキ子さんの個展「黒衣の女へ」を鑑賞しに曳舟のLe petit parisienさんへと足を運んでまいりました。 漆黒を纏う女たちは月みたいにおのれの片側を隠し、どこかに秘密を宿しているように美しく、その画を眺めなつつ心から感じ…

アリスのティーパーティー part.2/点滴堂

点滴堂さんのアリスのティーパーティー。 part.1にひきつづきpart.2の今回は、スコーンとサンドイッチ、そして希望をいっぱいに詰めこんだバスケットのなかみたいに、つくりてのかたたちが《アリス》という観念にこめた美しい幻みたいに儚くしかし強靭な夢…

聖セシリアの面影/Silent Music

わたくしごとからはじまりますが、日曜日にロザリオをお迎えしました。 わたしはクリスチャンではないのだけれど、祈りのかたちとして以前からそれが手もとにあってほしいと願っていて、けれどももちろんどのようなものでもいいわけではありませんでした。わ…

蝶になることへの祈り

ずっとわたしは悲しかった。少女のままでいられなかったこと、いいえ。少女になれなかった自分が悲しかった。少女でないわたしは、しかし女にならなければいけない。そのことを思うとたまらなくなりました。 この「女になる」ということが、呪いのように恐ろ…

乙女の庭と女の荒野

「愛の庭の乙女、その優美で豊潤で繊細な庭は、あなたと親しみをかわす者にとって心安らぐ場所です。悲しみや苦しみに沈むとき、顔をあげて、これまで築いた美しい庭を見渡してみてください。丁寧に培った植物たち、光の洪水。乙女の愛は、その庭がみせるあ…

初恋

まえのお手紙で綴りましたね。わたしが十七歳を迎えるまえのこと。 鈴の音に招かれて眠りに就いたとき、決まって見ていた夢のこと。 その夢がどんなものであったのか気になると、せっかくあなたがいってくれても、あなたの興味を満たすような話なんて、わた…

淋しさと哀しみの座標軸

* わたしの座標軸は、いつもある日突然ねじれる。そうして愛するひとたちを戸惑わせてしまうから、ほんとうはそんなふうに乱れた姿を見られたくはない。なるべく自分のなかだけに閉じこめて、抑えこんでおきたい。魔物を飼いならすように。でもそれはきっと…

神さまのいない月の朔

ふと今年もすでに十月が巡っているのだという事実に気づきました。神さまのいない月です。去年のいまごろはこの神無月の朔日――新月の晩に、神とおなじようにお空に不在の月へと祈りを捧げるように、わたし自身に願うように眠りに就いたことを覚えています。…

星の巡礼/Silent Music

金木犀の香りがしました。 夏の光輝のなかで朽ちていったなにかが骨のごとく浮き彫りになる秋の空気のなかに浮遊するように漂うその芳香はなぜだか懐かしさを誘い、実際には存在しない遠い過去を想起させます。遺伝子に組みこまれている郷愁みたいに、その香…

ノスタルヂックブートニア/点滴堂

点滴堂さんにはいま、切ないほどの郷愁に満ちた時間が流れています。いいえ、《時》は流れていない。あの空間にある時計はどれもがみな、誰かが置いてきた「過去」のなかで長針も秒針もとまっている。そこにひろがる記憶の屋根裏部屋で、あなたがあのころに…

乙女の散策/Silent Music

東中野の駅からすこし歩いた場所にある曲がり角を右折して坂道をおりたさきに、その入り口はあります。Silent Music——マリアさまのお庭。聖母が微笑みながら見おろす美しい庭をとおり、扉をあけたさきにある空間には、やさしい旋律がひろがっている。それは…

かぐや姫の月のまえに

昨夜は中秋の名月にむけて、おつきさまの手紙を綴っていました。かぐや姫の月の日には大好きなひとたちと月世界でも口に運びながら、ほのかに溶けてゆく甘さのなかであの化粧箱に描かれた兎を月に探してみたいけれど、それもなかなかむつかしいので、せめて…

アノンハットの乙女帽子店/SERAPHIM

キバナコスモスが咲いていた。 宙で曲線を描きながら火花のように散りばめられたその花を、国立の駅の南口からでてすぐの場所に見つけたとき、黄色く色づいたそのちいさな花火がなぜだかわたしたちを待っていてくれていたような気がした。コスモスは秋の桜と…

バレエ詩集vol.1~ラ・シルフィード/霧とリボン

あなたはシルフィードを知っていますか。 それは妖しの精なる者の名前です。人間の男を愛したために、美しい罠みたいな笑い声をたてながら独楽のように回転し、男を自らの領域である森へと誘う。愛のために流星のごとく命を燃やし儚くなった、その妖精の名。…

乙女の散策/安楽

距離に隔てられているがために、容易にお逢いすることの叶わない銀木犀のあの子が新幹線で遊びにきてくれたのをいいことに、あちらにこちらにと引っ張りまわしたわたしにむかって、そのたびに銀木犀はおのれのバイブルとしている大好きな嶽本野ばらさんのお…

乙女の散策/十誡

わたしたちはその光線で白い槍みたいに全身を突き刺す太陽に灼かれながら、都会という砂漠のなかを歩いていた。いくつも立ちならぶビルは、群生した巨大なお墓のようだった。それが誰を弔うものなのかも知らず、わたしたちはエメラルドの水の庭園から不意に…

幻の女

ある方からPOLAのフレグランスボディシャンプーのCasablancaとRoseを贈っていただく機会に恵まれてから寝台に入るまえのわたしは、百合か薔薇のにおいを纏うことが多くなった。 Casablancaは百合の香り。 この眠りを誘うように甘く、骨に響くように切ない香…

五つ数えれば君の夢

フレグランスの小瓶のなかには、わたしの夢とか希望とか、そういう砂糖菓子のごときものが詰まっている。わたしにはないもの、欠けているものを、香りを纏うことで、憧憬し理想し尊敬する女性の像へと、遠く隔たった距離から一歩近づくことがゆるされるよう…

クリームソーダには謎がある

クリームソーダは謎に満ちている。その謎を解き明かすことが世界の秘密のひとつを知ることと同義語となりえるかもしれないと、そんなことを漠然と感じさせるようなどこかいかがわしい甘美のにおいのする飲み物だと、あのメロンソーダだと主張しながらちっと…

乙女の散策/草舟あんとす号、Atelier conafe、コトリ花店

小川の駅から徒歩で十分ほどの場所にある《塔》には三人の魔女さんが棲んでいます。植物の本屋さんである草舟あんとす号ではタロットのセッションやフラワーレメディの調合をしてくださり、Atelier conafeでは口にすると頬がおちてしまいそうなおいしいお菓…

空のかなたにいる誰か

「東京には空がない」と高村智恵子はいった。 「私のなかで女性名詞の海が亡ぶとき、私ははじめて人を愛することを知るだろう」と寺山修司はいった。 * 「わたしはね、空は男のもので、海は女のものだと思っているの」 「なぜ?」 「なぜって聞かれたら、こ…