少女

ひかり輝く、やみに昏く

かぐや姫のことは、もういろいろなところでお話しているので、その反復しかできないことを承知しつつ、わたしはどうしてもあの月の姫のことを書かずにはいられない。きっと繰り返し話していることと同様のことなので、もう充分だというかたは読み流してもら…

安蘭個展 「Sanctum」/ヴァニラ画廊

羽ばたく蝶を見つめているひとの頭にはおおきなリボンがありました。 月が見おろす場所からなにかを祈るひとの瞳にはお星さまが浮かんでいました。 わたしは蝶とリボンが、少女という生き物を語るうえで欠けてはならないふたつであると感じています。少女が…

カルミラ、あるいは美しき少女

今年最後になって、大好きな物語の紡ぎ手である伊藤裕美さんの新作、『カルミラ族の末裔』をようやく読み終えることができました。白状しますと、わたしはすこしだけ恐れていました。裕美さんの綴られた『寄宿舎の秘密』をこよなく愛しているわたしなので、…

閉ざされた蜜の部屋――志田良枝さんに宛てて(1)

花が棲む。わたしの心臓に植えつけられた種子は幻想の芽を宿し幻惑の花びらを綻ばせる。その花の蜜に閉じられた黄金の部屋に姿を隠す精霊が、わたしに囁く夢をみる。眠りのむこうから彼女が呼ぶとき、おのれの伏せた目のなかに妖しく美しい花の幻影を視る。—…

アリスのティーパーティー part.2/点滴堂

点滴堂さんのアリスのティーパーティー。 part.1にひきつづきpart.2の今回は、スコーンとサンドイッチ、そして希望をいっぱいに詰めこんだバスケットのなかみたいに、つくりてのかたたちが《アリス》という観念にこめた美しい幻みたいに儚くしかし強靭な夢…

白亜の余白に

「白亜の余白に」という題名を無意識に綴ってしまってから、どういう意味だろうと自分でもすこし困惑している。白、とひとことにいっても誰もが脳裏におなじ「白」を思い浮かべるわけではない。世界の乳が祝福をこぼしているミルクのような陽射しを思い浮か…

永遠の少女標本(17)――藤原璋子

藤原璋子(ふじわら の しょうし/たまこ、1101年ー1145年9月10日) 平安時代後期、鳥羽天皇の中宮であり、崇徳・後白河両天皇の生母だった女性。待賢門院。 心に川をもつ少女。 彼女の心には川があった。はじめ、彼女の胸の内側からあふれでる水は、ひとり…

甘美な書物、鮮烈な流星

わたしがアナイス・ニンの書物と出逢ったのは、アナイスがその生涯にわたって綴りつづけた日記を書きはじめた年齢と、おなじくらいの年だった。 『アナイス・ニンの日記』。 小娘だったわたしは、そこに羅列された言葉の鮮烈さ、横顔をむける佳人の美麗さに…

永遠の少女標本(16)――サロメ

サロメ(Salomé) ヘロディアの娘として数々の芸術作品のモティーフになった王女、あるいはオスカー・ワイルド著『サロメ』の登場人物。 空を欲しがった少女。 この少女の青白い頬は銀の花の色、白い蝶が舞う雪の色。 彼女の瞼の裏に棲む月が、彼女に天を夢…

神さまのいない月の朔

ふと今年もすでに十月が巡っているのだという事実に気づきました。神さまのいない月です。去年のいまごろはこの神無月の朔日――新月の晩に、神とおなじようにお空に不在の月へと祈りを捧げるように、わたし自身に願うように眠りに就いたことを覚えています。…

永遠の少女標本(15)――姫宮アンシー

姫宮アンシー(ひめみや・あんしい) アニメ作品『少女革命ウテナ』の登場人物。 薔薇の少女。 薔薇はその心に幾重にも衣裳を纏っている。迷宮に渦巻く螺旋階段のような花。魅いる者に秘密を囁く花。どこまでいっても出口のない複雑さに、彼女に惑ったものは…

アムネシアという名の薔薇

アムネシア、という名の薔薇があるのだという。ほのかに淡くどこか儚く、透明感に満ちたうすく染まりはじめた夜明けの色のように美しい薔薇で、わたしはその花の存在を知ったとき、なぜアムネシア――「記憶喪失」という名前が授けられたのか、そのことにとて…

永遠の少女標本(14)――山川登美子

山川登美子(やまかわ とみこ、1879年7月19日-1909年4月15日)本名・とみ。 日本の歌人。 しら百合の少女。 「髪ながき少女とうまれ白百合に 額は伏せつつ君をこそ思へ」—―かみながき をとめとうまれ しろゆりに ぬかはふせつつ きみをこそおもへ 少女と記し…

永遠の少女標本(13)――キャサリン・アーンショー

キャサリン・アーンショー(Catherine Earnshaw) エミリー・ブロンテ著『嵐が丘』の登場人物。 荒地という宇宙を彷徨う少女。 「かれはわたしで、わたしはかれなのよ」と彼女はいった。 彼女とかれはそれぞれ異なるふたりの人間でありながら、ひとつの心臓…

宇宙人の娘と呼ばれて

「きみはまるで宇宙人の娘みたいだ」 多感なころに、そんなことをいわれたことがある。 どんな惑星からこの地球にやってきたのかも知れない、異星の生き物のような小娘が、なにやら自分には理解しがたいことをしゃべっている。きっとその程度の意味に過ぎな…

オッド博士の美少女図鑑/スパンアートギャラリー

オッド博士とは何者なのでしょう。 かれは白衣を纏い、なにかを制作されているようです。 かれはいつも、美しい少女たちに囲まれて微笑んでいます。 けれども、なぜでしょう。かれのシニカルな唇はやさしげに綻んでいるにもかかわらず、眼鏡の奥のその目は妖…

永遠の少女標本(11)――セシル

セシル (フランソワーズ・サガン著『悲しみよ こんにちは』の登場人物) 夏に閉じこめられた少女。 彼女は夏そのものだ。 輝く光の粒子が人間たちの皮膚を灼き、その陽射しの注がれるところからなにかが音をたてて腐敗してゆく。夏が呼吸するとき、そこには死…

天の球体は神さまの瞳

夏が好きです。 わたしは冬に生まれた。その年いちばんの寒さを世界が覆った日、空から雪の花びらが舞い降りた日に。わたしは冬の女です。それにもかかわらず、それだからこそ、夏に焦がれます。 誰も彼もが日射病を患って倒れてしまいそうなあの季節には、…

永遠の少女標本(10)――ジュリエット・キャピュレット

ジュリエット・キャピュレット(Juliet Capulet) ウィリアム・シェイクスピア『ロミオとジュリエット』の登場人物。 流星の少女。 あのひとに出逢ったとき、わたしは十四歳でした。 ある種の分別によれば、それは恋をするにはやすぎる年齢でした。しかし早…

永遠の少女標本(9)――オフィーリア

オフィーリア(Ophelia) ウィリアム・シェイクスピア著『ハムレット』の登場人物。 不信の少女。 これは罰なのでしょうか。 あのひとの心を疑ったわたしへの。 あのひとの心は高潔でした。その愛は黄金でした。 それなのにわたしは、その気高さに不信を抱き…

夢の縁取り 叶える彩り/文房堂GalleryCafe

みきぐちさんの描かれる絵をどうしてもこの目で見たくて、神保町の文房堂GalleryCafeでひらかれている個展、『夢の縁取り 叶える彩り』へと訪ったわたしは、どれもそれぞれに素晴らしい花と少女たちの絵のなかを巡りながら、ある一枚の画のまえで立ちどまっ…

少女は「神」を殺して女になる

* 先生、男にとって女とはなんでしょう? 男には女という異なる性を持った人間が存在しているという認識はないのだと気づいたのは、正確にはいつのことだったか思い出せないくらい。彼らにとって(あなたたちにとって、といいなおしたほうが正しいでしょうか…

乙女ミステリ

金木犀が郷愁をさそい、その香りが遺伝子に組みこまれた記憶、存在していない過去をたちのぼらせるとき、秋が巡ってくる。 秋は毎年、推理小説と宮沢賢治を読むと決めています。 ミステリは嗜好品。煙草やお菓子やアルコールとおなじ。読み終えたらゼロへと…

永遠の少女標本(8)—―大姫

大姫(おおひめ、1178年ー1197年8月28日) 鎌倉時代初期、源頼朝と北条政子のあいだに生まれた女性。 かくれんぼの少女。 六歳のとき、彼女は縁戚関係にあった十一歳の源義高と婚姻を結んだ。 稚い花嫁。それは結婚とは名ばかりの、「おままごと」であったは…

乙女椿の色した夕空

燃えるような夕焼けの黄昏の空を眺めるとき、いつも無意識にあの子のことを考えている。わたしが乙女椿と呼ぶ少女のこと。あの子がはじめてわたしのおうちに遊びにきた日の翌日、その夕方、わたしはやっぱり夕焼けを見ていた。世界を祝福しているような色に…

つつじの蜜の味

「つつじの花の蜜は天使の血とおなじ味だと思う」 わたしがそういうと、彼女は不思議そうな顔で「どうして?」と疑問符を浮かべた。 「だって甘くて、そして毒がある」 放課後の帰り道、わたしたちの傍らに鮮やかに咲くあのアザレアピンクの花の色を眺めなが…

ユディットの末裔

わたしの《少女》たちにいつか、清原なつの著『花図鑑』のなかに収めらている、あるお姫さまのお話をしたことがある。この話をはじめて読んだのは十年ほどまえになると思うけれど、いまでも強烈に覚えている短編漫画で、それなのにわたしのいつもの悪い癖の…

永遠の少女標本(7)――八百屋お七

八百屋お七 (やおや・おしち) 江戸本郷の八百屋の娘。恋のために火刑に処されたとされる少女。文学、歌舞伎、文楽など多くの芸術のなかでとりあげられている。 曼珠沙華の少女。 火の海から救出されたときに出逢った男に恋をし、もう一度おなじように世界…

夏はもう戻ってこない

“ 彼女がこの夏の九日間を一緒に過ごそうと提案した時、私は新しく買った日記帳のことを考えていた。” 『蛇行する川のほとり』という物語はそんな冒頭から幕をあける。 “ その気になればほんの一撃で壊してしまえる代物なのに、少女たちはあの小さく脆弱な鍵…

お嬢さんにはマーブルチョコを

その頁を紐解けば遠い虹のむこうに埋葬されたわたしのなかの《少女》が騒ぐ。そんな書物がある。 女のからだはお城で、そこにはひとりの少女が棲みかくれんぼをしているといった詩人がいるけれど、わたしのなかで微睡み、つぎはいつ起きるのか、あるいはもう…